うたまる神の今日の言葉

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zoom RSS 第三話 杉並、始動

<<   作成日時 : 2006/10/19 19:02   >>

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 音姉や由夢たちと分かれて教室へ向かうと、気の早い連中が多いのか、すでに大勢のクラスメイトが集まっていた。
「おはよ〜さん」
「あ〜、義之ぃ〜」
 教室に入るなり小恋が不安な面持ちで近寄ってきた。
「なんだよ、小恋。朝っぱらから不景気な面しやがって……」
「だってぇ〜」
 こいつは月島小恋(つきしまここ)。
 俺とは子供時代からの知り合いで、何故か毎年同じクラス、今年にいたっては席も隣同士という曰く付きの腐れ縁だ。
 3組の杏や茜とは仲がよく、しょっちゅうつるんでいる。
 『つるんでいる』というよりは『いじられている』という方が正確かも知れないが……。
「何が『だってぇ〜』だよ。準備、ちゃんと進んでるじゃないか……」
「そうだけどぉ……」
 不安そうな小恋を尻目に、俺は今日室内を見渡した。
 昨日の放課後、切り上げた時より確実に準備が進んでいる。
「意外と早くメンツ面子が揃ってきたからね。準備も早めに再開させてもらったの……」
 うちのクラス委員長・沢井麻耶(さわいまや)が俺の様子を見て応えた。
「おっす、委員長」
「おはよう、桜内……」
「この調子なら、順調にスタートできそうだな、"焼きおにぎり屋”……」
「はあ……」
 委員長はこれ見よがしにため息をつく。
「一旦は引き下がった身で今更ぶり返してもしょうがないかもしれないけど、もう一度言わせてもらっていい?」
「正直、俺はエンリョしたい」
「いえ、言わせてもらうわ!」
「じゃあ、聞くなよ」
「そうだよ、義之。委員長の言うとおり、わたしも言わせてもらうよ!」
「……何だよ」
「「なんで焼きおにぎり屋なの!?」」
 真面目という以外に共通点はなく、普段、仲がいいわけでもない二人の叫びが気持ち悪いほどピッタリと揃った。
「……そんなこと、声を揃えて言われてもな」
「別に揃えたくて揃ったんじゃないよ〜」
「正直、不安でいっぱいなんだけど……」
 委員長の呟きに、クラスの女子の何人かも頷いている。
 助けはいないのかと見回してみたが、他の連中は肩をすくめるだけだった。
「別に俺が決めたわけじゃねーしな……」
「正直、騙された感が抜けないのよね……。あいつが決めたんだから、あんたからあいつに何か言ってやってよ」
「そーだよ、そーだよ。義之が言ってよね!」
「何で俺が……」
 しかも、非難の対象人物は来てないし……。
「騒がしいな。何を言い争っている? 廊下まで聞こえてしまっているぞ、みっともない……。一体どうしたというのだ桜内」
 諸悪の根源がのほほんとした顔で登場した。
 こいつは杉並(すぎなみ)。
 成績優秀、運動神経抜群、人格に難あり。
 まあ、言ってみれば『悪友』の一人なのだが、悪友のレベルが渉などよりは、ひとまわりもふたまわりも上といっていい。
「来たか……遅いぞ」
「ははは、すまんすまん。生徒会の高坂(こうさか)まゆきに追われていたのでな、少し遅れた」
「そりゃ難儀だな……」
 高坂まゆきというのは、本校1年の先輩で、音姉の親友だ。
 音姉と同様、生徒会に所属していて、杉並を目の敵にしている。
「で、何だ。モメている用件を言え」
「こいつらが、焼きおにぎり屋に不服なんだと」
「まだそんな話をしていたのか……。その話はすでに決着がついたと思っていたのだがな、委員長よ」
「そうかもしれないけど、納得行かないものは行かないの」
「そうだよ。こんなので本当に勝てるの?」
「ふむ、そんな疑問を抱いているのか……。ならば、敢(あ)えて言わせてもらおう……。勝てる!!」
 杉並はキッパリと断言した。


 話は一週間ほど前にさかのぼる――。
 俺たちは卒業式のリハーサルに駆り出されていた。
 付属の3年生は、卒業とは名ばかりで、そのまま殆(ほとん)どの生徒が本校に進学する。
 しかし、本校の3年生は、本来の意味での『卒業』となる。
 そのため本校の3年生を送り出す式は、5学年総力をあげての送り出し、ということになる。
「とは言うものの……」
「うむ、暇だな……」
「ふあああぁ……」
 ――まあ、無理もない。
 いくら豪華で総力を結集した卒業式といえども、やることは毎年あまり変わらないのだ。
 しかも、リハーサルでは力が入らないのも当然である。
 こんなのを真面目にやるのは、送り出される3年生以外じゃ、由夢たち付属の1年生くらいなものだ。
「まあ、リハーサルは良いとしてだな、桜内」
「ん?」
「当日の我々の活動だが……」
「……。また、何かやらかす気か?」
「当然だろう? 我々は我々なりの誠意で卒業生を送り出さねばならん。一部の卒業生は、我々の破壊工作を猛烈に期待している……と聞き及んでいるぞ」
「んなもん、一部だろ……」
「マイノリティを馬鹿にしてはいかんな、桜内。それに他の連中だって、口では何も言っていないが、期待しているに決まっているだろう?」
 ……うーむ。
 自分の卒業式をめちゃくちゃにされて喜ぶ卒業生なんているんだろうか?
「せーしゅくに。みんな、せーしゅくに!」
 そんなくだらない話を杉並としていると、壇上に生徒会長が立った。
 かなりのキレ者と噂の本校2年の生徒会長だ。
 その脇には、音姉やまゆき先輩など、本校1年の生徒会役員たちが並んでいる。
 ざわついていた全校生徒が、壇上に注目する。
「どーも、会長の磯鷲(いそわし)です。えー、皆さんも知っての通り、卒業生であり、前生徒会長である宮代雪乃(みやしろゆきの)さんは、歴代の生徒会長の中でも類稀(たぐいまれ)なほど偉大な方でした」
 ――そうだったか?
「我々在校生は、その前会長の卒業を祝うとともに、彼女から受けた多大なる御恩に対して恩返しをしなければなりません! しなければならないのです!!」
 壇上の生徒会長はアツく語った。
 会長の脇に控えている役員たちは苦笑いを浮かべているし、生徒たちは卒業生も含めてポカーンとしている。
「そんなに偉大な会長だったか?」
「ふむ……まあ、良い好敵手ではあったな。このまま亡くすには惜しい人材だ」
 死んでないだろ……。
「今の会長は正直、ヌルいからな……」
 杉並のいうところのヌルい現会長は、卓をバンと両手で叩いた。
「そこで!!」
「正直なところ、高坂と朝倉姉がいなければ、現体制では、敵として不足。我々と互角にやりあうことは不可能だ」
「来(きた)る3月15日、皆さんが楽しみにしている卒業パーティー――通称『卒パ』を、例年より盛大に行ないたいと思っております!」
 生徒たちが、ざわざわとざわめき始める。
「つきましては、卒パにおいて一番売り上げを上げたクラスには、超豪華賞品を贈呈したいと思います!!」
 『おお!』という歓声。
 音姉たち役員は、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。
 おそらく何も聞かされていなかったのだろう。
「前会長のために! 皆さん! 卒パを! 思いっきり! 盛り上げてやってください!!」
「か、会長、聞いてないですよ!」
「そんな予算、どこから出るんですか!?」
「ふふ。あんたたちは知らないでしょうけど、こんなときのために、少しずつ経費を節約していたのよ!」
「え〜!?」
「だ、だからって、無茶です!」
「うるさい。足りない分はポケットマネーよ。あんたたちからも出してもらうからね。前会長BANZAI! 宮代会長FOREVER!! あ、こら……何するの、やめなさい!! 放しなさい、朝倉! 高坂! 放さないと更迭(こうてつ)よ!」
 生徒会長は、役員たちに拘束されて連れて行かれてしまった。
「決定は覆(くつがえ)らないからね〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 去り際の生徒会長の断末魔が体育館に響き渡った。
「……ま、まゆき、黙らせて」
「会長、御免!」
 ――ゴス!
「あ……」
 そして、しばしの沈黙――。
「……………………」
「……聞いたか?」
「ああ」
「前言撤回。現会長もなかなかのタマだな……」
「別の意味でな……」
 あんなんでよくリコールされないものだ。
「ふふふふふ。桜内、破壊工作はなしだ」
「お前まさか……豪華賞品を?」
「いただきだな……」
「でも、あんな決定、通るのか?」
 音姉まゆき先輩たちがもみ消してしまうんじゃないだろうか?
「ふふ、お祭り好きの学園長のことだ、決定を覆すようなことはせんだろう」
 まあ、そう言われればそんなような気もする。
「まあ、念のため、裏で他の役員たちに会長案がもみ消されないよう工作はしておくが……。桜内も協力しろよ……。特に朝倉姉はお前にはとことん甘いからな……」
「………………」


「ええぇ!!?」
 卒業式のリハーサルが終わり、教室に戻る途中の道行きで、小恋が素っとんきょう頓狂な声をあげた。
「……でも、一番になんてなれるの?」
「『なれるの?』ではなく、"なる”のだ、月島」
「そんなこと言ったって、本校のクラスとかも出展するんだよ?」
「弱気になってどうする」
「はう……」
「そうだな……敵はおそらく、本校の先輩たちじゃない……」
 俺は前方から迫りくる二つの影を睨みつけた。
「同感だな」
「ふぇ……?」
 俺たちの視線を追って、小恋が振り返る。
 そこには約二名が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「ふっふっふっふっ。悪いな。この勝負、俺たちの勝ちだ……」
「正直、負ける気がしないわ……」
「渉……杏……」
 板橋渉に雪村杏――。
 味方ならまあ頼もしいと言えなくもないが、敵にまわるとこれほどウザったい連中はいない。
「お前らもノリノリなのか……」
「ふふ、当たり前じゃない。こんな面白そうな企画、乗らないほうがどうかしてる……」
「まあ、そうかもしれないが……」
「どうせ、あんたたちのクラス、当日の破壊工作ばかり考えて、大した出し物は企画してないんでしょ?」
「ウチのクラス、何だっけ?」
「……俺に聞くな」
 そういえば、出し物の話し合いに杉並が参加しているのを見たことがないな。
 かくいう俺も、考え事をしていてまったく聞いてなかったわけだが……。
「もう、二人とも……どうして知らないの? うちはフランクフルトを売るんだよぉ!」
「ふ、フランクフルト屋か……」
「限りなく無難だな……」
 杉並が『むう』と唸る。
 こりゃ、一位を取る為には、趣旨換えの必要があるな……。
「ふふふ。今から企画を変えて間に合うかしら?」
「お前らンとこは、何かすごいことを企画してるっていうのかよ?」
「さて、どうでしょう?」
「義之のクラスも杏のクラスも、せいぜい奇策を練ってくれよ」
 いつになく自信満々の渉が会話に割り込む。
「もともと、うちのクラスは、こんな事態にならなくても売り上げ上位は確実だったわけだしな」
「そうだよねぇ……」
「2組は何をやるんだ?」
「……さ〜てね」
「もったいぶるなよ。そこまで自信満々なら、教えてくれてもいいだろうに」
「わたし、知ってる……」
「何?」
「渉くんのクラスは……ななかのディナーショーだよね?」
「ななか……、ななかって白河(しらかわ)ななか?」
 小恋が小さく頷く。
「バレちまっちゃあしょうがねーな。まさしくその通りだ!」
 白河ななかっていうのは、風見学園のアイドル的存在の女子だ。
 俺は直接知り合いというわけではないが、小恋を通じてよく噂は聞く。
 実際、男子たちには先輩後輩を問わず、白河の強烈なファンが多く存在するようだった。
「……確かにそりゃ、強敵だな」
「悪いな。白河をよう擁している時点で、うちのクラスははじめから二歩も三歩もリードしてるんだ」
「汚いぞ」
「何とでも言え。俺様は心が広いから、負け犬の遠吠えにも耳を傾けるようにしているのだ」
「渉くん性格悪ぅい……」
「杏のクラスは何をやるんだ?」
「知りたい?」
 杏が俺に擦り寄って、人の胸を人差し指でつつきながら呟く。
「いや、別に……」
「無理しちゃって。知りたいくせに……」
 そう言って俺に息を吹きかける。
「杏!」
「やーね。冗談よ、冗談。相変わらずシャレが通じないのね、小恋は……」
「う〜……」
「で、3組は何をやるんだ?」
「セクシーパジャマパーティー」
「はい?」
「だから、セクシーパジャマパーティーよ」
 名前だけ言われても、いまいちピンと来ない。
「ぐはぁ!」
 ――と思ったら、隣で渉が吐血(っぽい仕草を)した。そして、そのままうずくまる。
「け、けっこうやるじゃねーか……」
 渉はフラフラとしながらも立ち上がり、ファイティングポーズを構えた。
「何だかわかるのか?」
「ああ……。やはり腐っても雪村杏……、やることがエゲつないぜ」
「別に腐ってないけど……」
「わかるように説明してくれよ。なあ?」
「うん……」
 俺も小恋もさっぱりだ。
「わからねーか? 喫茶店なのか立食パーティーなのかは知らんが……こいつらのクラスは女子どもがパジャマ姿で接客するって言ってんだよ」
「な、何だってー!?」
 確かにそれは破壊力がある……。
「ようやく恐ろしさがわかったか……」
 俺は頷いた。
 しかも、確か3組には――。
 俺の視線の意味を理解したのか、渉も頷く。
「そうだ。3組には、うちの学年きっての巨乳と噂される花咲茜がいる。それに、こいつ……」
「そ。私がロリ担当……。幅広くニーズに応えるわ」
 自分で言うか……。
「ちなみに……、参考までに聞かせてもらうが、杏……」
「なぁに? 質問はひとつまで許可するわ」
「貴様の当日のパジャマはどんな感じだ?」
「……男物の大き目のセーター一枚」
「「何だってぇ!?」」
 それがパジャマに入るのか?
 バナナがおやつに含まれる可能性よりも低い気がするぞ。
「ちなみに……ズボンは……」
「もちろん……そんなものはないわ……」
「げふっ……」
 再び渉が吐血(っぽい仕草を)して膝をついた。
「や、やるじゃねぇか……。一度ならず、二度までも俺に膝をつかせるとは……」
「で、来るの? 来ないの?」
「もちろん、空き時間を見つけて行かせていただきます!」
 敵の売り上げに貢献してどうするよ……。
「ありがと。席はリザーブしておくわ……。義之、あなたはどうするの?」
「え……? えーと……」
 パジャマ姿の女子か……。
 俺が逡巡(しゅんじゅん)していると、小恋が割って入ってきた。
「行っちゃダメ。行っちゃダメだからね!」
 俺の肩をぐっと掴んで、シェイクする。
「わかった、行かない。行かないから、揺するな。揺するなって! 脳が揺れる!」
「ダメだからね!」
 頬を膨らめて、小恋が駄目押しした。
「……なんなら、小恋用の席もリザーブしておいてあげるわよ?」
「そ、そんなの行かないもん」
「小恋には、運動部で鍛え抜きの男子をビキニ姿で四、五人はべらせてあげる」
「いいよ、いいよ!」
 小恋は顔を真っ赤にして、首をブンブンと横に振った。
「我慢することないのよ?」
「してないもん!」
「小恋の大好きな割れた腹筋よ?」
「そんなの好きじゃないもん!」
「ふふふ。無理しちゃって……」
「う〜……」
「まあ、ともかく俺らは手を抜かないつもりだ。張り合うつもりなら、もうちょっと出し物考えろよ」
「空き時間にフランクフルト、食べに行くから。空き時間があったら、の話だけど……」
「「あはははははは……」」
 渉と杏は笑いながら去っていった。
「あいつら……」
「なんか、勝てそうもないね……」
 小恋が弱気な発言をする。
 しかし、ヤツらは、さっきまで勝ち負けなんてどうでも良いと思っていた俺に火をつけてしまっていた。
「勝つぞ」
「え?」
「豪華賞品なんてどうでもいいが、あいつらだけは凹ましてやらにゃ、気がすまん。やるぞ、杉並!」
 ……しかし、返事はない。
「……杉並?」
 周囲を見回してみると杉並の姿はどこにもなかった。
「おーい、杉並く〜ん?」
「杉並くんならとっくの昔にいなくなったよ……」
 何だって!?
 ――気づかなかった。
「いつ!?」
「杏がセクシーパジャマなんとかって言ってたくらいかなぁ? 『対策案を練る』とか言って行っちゃった……」
「………………」
 つまりは先に教室に戻ったというわけか。
 俺たちも早く戻って対策を立てなければ。
「俺たちも戻るぞ!」
「う、うん……」


「はぁ!?」
 クラスの意志を代表していると思われる委員長の疑問の声が廊下にまで響いてきた。
「早速やってるな……」
「うん」
 俺と小恋は頷き合うと、教室に飛び込んだ。
「悪い、遅くなった」
「ねぇ、桜内。ちょっと翻訳してくれない? さっきから杉並が、何を言いたいのかさっぱりわかんないんだけど」
「桜内、すまないがこの凡人にわかるように、噛み砕いて説明してやってはもらえんか?」
「……えーと、経緯は全然わからないんだが、杉並はこう言ったんじゃないか? 多分、『卒パで行なう予定だったフランクフルト屋をやめにしないか』と……」
 クラス内から感心する声があがる。
「さすが、桜内。杉並のことなら桜内におまかせだな」
「惜しい。非常に惜しい! 俺はもう一歩進んでいるのだぞ、桜内」
「え?」
「この馬鹿はこう言ったのよ。『喜べ。たった今、業者に注文しておいたフランクフルトを無事、キャンセルしてきたぞ』ってね……」
「なんだ、通じてるんじゃないか……」
「通じてないわよ! ぜんっぜん意味がわかんない! せっかく私が安い業者を見つけてきて、注文とったっていうのに!!」
「そんなんで売り上げ一位は望めないだろう?」
「はぁ? オーソドックスな売れセンを、これでもかってくらい安値で仕入れるのよ? それ以外にどんな……」
「甘い。甘いぞ、委員長。そんなんで勝てる程、世の中は……いや、風見学園の卒パは甘くないのだ」
「どーしてよ?」
「桜内、説明してやれ」
「やれやれ……」
 俺は、先ほど仕入れたばかりの2年2組と2年3組の出展情報、クラスの皆に説明した。
「なにそれ……」
「風俗かよ……」
「ぶっちゃけ行きてーな……」
「バカ……」
「そんなわけで、俺たちもそれ相応の対処をしないと一位は望めないというわけだ」
「バッカみたい。無理に一位を狙う必要なんてないんじゃないの?」
「しかしな、売られた喧嘩は買わなきゃいかんだろう? あいつら、完全に俺たちを舐めてたぞ」
 俺は先ほどの渉と杏の舐めきった目を思い出した。
「……なんですって?」
 人一倍プライドの高い委員長のまゆ眉がピクリと動く。
 こりゃ、もう一押しかな?
「2組の板橋と3組の雪村が、しょせん沢井麻耶なんて堅物の小物が委員長やってるクラスじゃ、勝負にもならないって嘲笑ってたなぁ……」
「小物? 小物って言った? この私を!」
 委員長が可愛らしい顔に似合わずギリギリと歯を軋らせている。
 眼鏡の奥には明らかな殺意が見て取れた。
「義之ぃ」
 小恋が抗議の眼差しで俺を睨む。
「いいからいいから」
「人をポーチか何かみたいに言い腐って……」
 言いながらワナワナ震えたかと思うと、委員長は握り拳を作って顔をあげた。
「わかったわ。この勝負、勝ちましょう!」
 委員長がそう宣言すると、元来祭り好きのクラスメイトたちは、わっと歓声をあげた。


「あのときはあんなにノリノリだったくせに……」
「う、うるさいなぁ。乗せたのは桜内たちでしょう?」
「いいか? よく聞け。普通にやったら勝ち目はないのだ。俺の選択は正しい」
「どうかしら?」
「なぜ今、焼きおにぎりなのか……今一度説明せねばならんようだな……」
「何度も聞いたわよ!!」
「じゃあ、説明してもらおうではないか……。俺の言ったことを一字一句たが違えることなく!」
「え、えーと……すさ荒んだ現代社会において、最も必要なのはヒーリング、すなわち『癒し』であ〜る!」
「口調まで真似するか……」
「う、うるさいわね。一字一句って言ったじゃない……」
「その通りだ、委員長。がいや桜内に構わず続けてくれ」
「……そ、その『癒し』を体現する為に、この不詳杉並が提案するキーワード……それは、即(すなわ)ち『手作り』であります!!」
 なんだかんだ言ってしっかり覚えている委員長も委員長だな……。
「そう。そうだ、わかっているではないか。しかし、ただの手作りでは弱すぎる。そこで、登場するのがおにぎりだ。ただの手作りではない、ナマの手で直接握るというプロセスを踏んで完成する神聖な供物(くもつ)、それがおにぎりなのだ! まさに、『手』作り!」
 杉並が握り拳を高々と挙げアジる。
「わかるか? 美少女が直に握った銀シャリを、そのまま口に放り込むんだぞ! これは正直エロい!」
 周囲の男子生徒の何人かがウンウンと頷く。
「そう言われると握る気なくすよねぇ……」
「…………」
「言わんとしていることはわからんでもない。しかし、最初に言ってた『癒し』と、だんだんかけ離れていってると思うのはは気のせいか?」
「気のせいだ!」
 ――さいですか。
「美少女のナマの手が握ったおにぎり! 行ける! 兜率(とそつ)の天の食と評しても過言ではないのではなかろうか!?」
「なーにが、兜率の天の食よ! 先週はその口車に気圧されたけど、冷静になって考えてみたら、やっぱりどうかと思――」
「何を言うか! このコンセプトは風見学園の男子共の脳下垂体を必ずや直撃する! そして、成し遂げることが可能なのは、お前たち美少女しかいないのだ!! 頼んだぞ、美少女たち!!」
「…………び、美少女」
「そうだ、美少女! 違うか、美少女!?」
 杉並に両肩をつかまれ、正面切って『美少女』と断言された委員長は、頬を紅潮させた。
「委員長……ああいう言葉に慣れてないから」
 一週間前もこれに押し切られたんだったなぁ……。
「頼んだぞ、美少女!!」
「…………。……そ、そうね。自信はないけど頑張ってみる」
「あ〜あ、委員長が陥落しちゃったよ」
 小恋がガックリと肩を落とす。
 委員長がやる気を取り戻したら、もう変更は利かないもんな。
 っていうか、元々、今更出展内容の変更なんてできないんだけど……。
「何にせよ、良かった良かった」
「わたしは納得してないよぉ〜」
「そう言うなよ。ここまで来たらやるしかないだろ?」
「……う〜」
「ゴネるなよ……」
「桜内、要領は同じだ。月島に言ってやれよ」
「な、何をだよ……」
「それは貴様が考えろ」
 やっぱ『美少女』か……!?
 そう思い、小恋を見る。
「……………………」
 期待している。明らかに目が期待している!
「杉並が言えよ……」
「何を言っている。これはお前が言うから意味があるのだ。なあ、月島?」
「え? あ、う〜ん……ど、どうかな?」
 言いよどみながらもチラリと俺の方を向く。
「さあ、頑張れ桜内。超豪華賞品のためだ!!」
「うぐ……」
 どうしたものか――。
 俺はしばらくの逡巡の後、小恋の両肩を掴んだ。
「あの、さ……小恋」
「ひゃい」
 小恋がビクンと跳ね、そして硬直する。
「………………」
「……………………」
「………………び、びしょ」
「……………………」
「……言えねぇ」
 確かに客観的に見れば小恋は可愛い部類に入るから、『美少女』といえなくもないかもしれない。
 しかし、ガキの時分から一緒に過ごしてきた小恋にそんなことは口が裂けても言えない……。
 言えないにもほどがある……ってくらい、言えない。
「……はぁ」
 小恋が諦めたように肩を落とす。
 と同時に、ある種の緊張感を持って俺たちを見守っていたクラスメイトたちも一斉に『はぁ』とため息をついた。
「な、何お前らそろってため息なんかついちゃってんだよ。ため息をつくと、いいことがひとつ減るって言われてるだろぉ? と、ともかく、小恋ならできる。小恋ならやれる。一緒に頑張ろうぜ!!」
「う、うん……頑張ってみるよ」
「よく言った!! では、売り上げ一位を目指して頑張るぞ。いいな!」
 杉並が全員に檄(げき)を飛ばす。
 クラスメイトたちが頷いた。
「頑張ろうね、義之♪」
 そう言いながら微笑む小恋の目はやっぱりどこか残念そうだった。


〜あとがき〜
な、長かった……。
しかしまぁ、ようやく杉並が始動しましたね。
これからアルティメットバトルが繰り広げられるわけですが、相手もなかなか手強いです。
そしてとうとう妨害工作へと……。
どのような工作はお楽しみ。(大体想像つくと思いますが)

>ホタルさん
なんかお久しぶりですね。
あなたの予想通り○並が出てきました(笑)
これからの活躍にも期待していてください。

>ごまだんごさん
他人の夢は支離滅裂じゃないでしょうかね。
自分の夢でも訳の分からないときがあるのに、他人様の夢なんて理解不能の極みですよ、きっと。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
あいかわらず、風見学園のイベントは・・・(笑)
そして杉並はまったく・・・関心させられる(笑)

笑すぎました。

では。
ホタル
2006/10/19 21:49

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第三話 杉並、始動 うたまる神の今日の言葉/BIGLOBEウェブリブログ
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