うたまる神の今日の言葉

アクセスカウンタ

zoom RSS 第五話 料理の腕前

<<   作成日時 : 2006/11/29 14:57   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1

「ふうぅ〜。疲れたよ〜」
「お疲れ様です……」
 昼飯時を過ぎ、客入りがひと段落したので、店の方を他の奴らにまかせて、小恋と委員長には一休みしてもらっていた。
「たかが焼きおにぎりと思っていたけど、なかなかあなどれないわね……」
「おなかすいた〜」
「おにぎりならあるぞ〜」
「おにぎりはもういいよ〜。甘いものが食べた〜い」
「わたし、何か買ってきましょうか?」
 由夢が名乗り出る。
 家では『かったるい、かったるい』と言って全然雑用に応じてくれないくせに、こういうときは調子いい。
「朝倉妹、どこに買いに行くつもりだ?」
「卒パの最中なんですから、いろいろ売っているでしょう?」
「ダメだ。他のクラスの売り上げに貢献することは許さん」
「……じゃあ、どうすればいいんですか?」
「だから、ここにお前たちの焼いたおにぎりがあると言っておろう……。自分で握って、自分で焼いた握り飯だ。きっと、砂漠で見つけた井戸水のようにすばらしい味だぞ」
「だから、おにぎりはいらないって言ってるでしょお〜。杉並君の鬼……」
「私も甘いものがほしい」
「しかたがないな……」
 俺は鞄をまさぐるふりをしながら、こっそりと桜餅を二つ出した。
「桜餅でいいか? あとでこっそり食おうと思ってたんだが、欲しけりゃやるぞ」
「ホント? 食べた〜い」
「私ももらっていいかしら?」
「二人とも頑張ってくれたからな。ほれ!」
「ありがと〜。おいしいよ〜、えぐえぐ……」
「食いながら泣くなよ」
「うん。じゃあ、泣きながら食べる……」
「同じだろ……」
「あら、ホント。おいしい。花より団子の桜餅ともちょっと違う……。どこで買ったの?」
「ふふふ。穴場をそうカンタンに教えるわけにはいかないな」
「別にいいけど……。ともかく、ありがと」
「へ〜。兄さんの和菓子買い置きグセも役に立つことがあるんですねぇ」
「人を役立たずの能無しみたいに言うなよ……」
 俺はため息をついた。
「……で、昼までの売り上げはどんな塩梅(あんばい)だったんだ?」
「よくぞ聞いてくれました」
「かなり売れたよ。その分、疲労も倍増だけど」
「先ほど、他のクラスの中間報告を調べてきたが、うちのクラスはトップ3に入っている」
「すごいですねぇ。うちのクラスなんて全然やる気ないのに……」
「トップ3? あとのふたつは?」
「聞くまでもなかろう。付属2年の2組と3組だ」
 やっぱり――。
「なんだかんだで、四位以下に大きな差をつけているから、ベスト3から転落することはありえんだろうが……」
「生徒会長の言ってた超豪華賞品ていうのは、一位にしか与えられないんでしょう? 今の順位は?」
「一位が3組、二位が我が1組、三位が2組だ。……とはいっても、お互いの差はほとんどないと言っていい……」
「接戦なんだ……」
「委員長と小恋は引き続き頑張ってくれよ。お前らだけが頼りなんだ」
「乗りかかった船だもの。ここまで来たからには最後までつきあうわ」
「わたしも頑張る……」
 委員長と小恋が頷く。
「頑張るのも結構だが、ここから先はそれだけじゃ勝てないぞ」
「どういうこと?」
「これから先は攻めに転じさせてもらう!」
「攻めって何だよ。この場合は、売りまくることが攻めなんじゃないか?」
「甘いぞ桜内。いろいろと仕掛けていかなければ、この死合いは確実に負ける!」
「そりゃどういう……まさか!?」
「ふぇ?」
「そのまさかだ、桜内。“あいつら”は確実に仕掛けてくる!」
「………………」
 言われてみれば確かに。
 渉にしても、杏にしても、このまま黙って自分たちのクラスの売り上げだけを見ているとは思えない……。
「先手必勝ってわけね……」
 委員長の眼鏡がキラリと光る。
「いかにもだ。委員長、話が早いではないか……」
「私だってやるときはやるのよ。見てなさいよ! このアルティメットバトルを制するのは、私たち2年1組なんだから!」
「…………」
 普段なら、杉並の暴走を止めなければならないはずの委員長が、完全に乗ってしまっている。
 ……いいんだか、悪いんだか。
「で、ますは何をするつもりなんだ?」
「第一案。まず、他クラスへの攻撃を開始する前に、我が方を補強する! 攻撃はその後だな……」
「補強?」
「ああ。強力な助っ人だ……」
「誰だよ……」
「やはり同じ面子ばかりでは、全校の男子をフォローすることはできんからな。他学年を市場に取り込むためには他学年の生徒が必要だろう」
 ――他学年?
 まさか!!
「杉並、お前……」
「そう。我がクラスを勝利に導く強力な助っ人、その名は……朝倉由夢!」
「へ?」
 みんなの視線が一斉に由夢に集まる。
「わ、わたし、ですか?」
「由夢ちゃんかぁ。うんうん、わたし的には大歓迎だよ」
「他のクラスの子なんて、ルール違反じゃないかしら……」
「甘い、甘すぎるぞ委員長! 先ほど、報告は聞いただろう? 2組は軽音楽部の連中を助っ人に駆り出しているし、3組にいたってはこっそりアルコールも出しているのだぞ」
「そういえばそうだったわね。卑劣な連中」
「それに比べて、朝倉妹を売り子に投入するなんて、可愛いもんじゃないか……」
「え、や、そう言われましても……」
 戸惑いを隠せない由夢。
 まぁ、いきなりそんなことを言われればそうなるだろうけど。
 確かに戦力アップになることは間違いな――。
「え?」
 由夢が?
 俺は凍りついた。
「待て待て待て待て、ちょっと待てぃ!」
「な、なに? 突然、大きな声出して」
「杉並! 由夢はダメだ! 参加させるわけにはいかない!!」
「本人の意思を聞いてないから?」
「そ、それもあるけど……」
「なら、どうだ、朝倉妹よ。我々にその力を貸してはくれないか?」
「や、あ、えっと、それはちょっと……」
「ダメったらダメだ!!」
「何だ? 兄としての強権発動か?」
「ふ〜ん、私たちがエキスとか何とか言われるのはいいけど、妹が客にそういう目で見られるのは許せないって、そーゆーわけ? 前時代の花嫁の父みたいなこというのね……」
 ち、違う。
 そんなんじゃない。
 俺が心配しているのは、由夢の料理の腕だ。
 由夢は――
 壊滅的なまでに料理が下手なのだ!!
「違うんだ、みんな。由夢に料理を作らせちゃいけない。死人が出る!」
「む……」
「大げさだなぁ、義之は。ただのおにぎりだよ。ねぇ、由夢ちゃん」
「当たり前です。まったく兄さんは失礼なんだから」
「俺のリサーチによれば、この学園内で朝倉妹を支持する層というのは、決して少なくないのだ。それでいて、委員長や月島を支持する連中ともかぶらない。これほど、うってつけの人材は他にはいない! そう。朝倉妹は、我々が待ち望んだ勝利の女神なのだ!」
「…………」
「うぐ……」
 たかが握り飯というなかれ。彼女にかかれば、どんなにカンタンな料理でも、完成品は料理とは呼べなくなる。
 強いて言うなら、『かつて食材だったもの』になるだけなのだ!!
「と、とにかく由夢はマズい。っていうか、由夢の作ったものは不味い。売り物にしてはいけないんだよ!」
「やりましょう」
 こめかみのあたりをヒクヒクとさせながら由夢がそう宣言した。
「ってバカっ! なにその気になってんだよ」
「兄さんは黙っててください。杉並さん、小恋先輩、沢井先輩、わたしやります!! ぜったい、兄さんを見返してやるんだから」
「よくぞ言ってくれた、救いの女神よ。では、早速準備にとりかかってくれるか?」
「はい! 頑張ります!!」
「由夢ちゃん、行こう。手順はわたしたちが教えてあげる」
「はい、小恋先輩♪」
 由夢は、小恋や委員長、杉並たちと行ってしまった。
「…………」
 おお、なんてこった……。
 神様……ごめんなさい。犠牲者が出るのを止めることはできませんでした。
 ………。
 ……。
 …。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。癒しの殿堂、我が焼きおにぎり屋に新たな癒しの天使が降臨しました。その名も朝倉由夢!!」
「ど、ども……」
「1年生ながら、あなた方を癒しのオーラで包み込みます。是非、あなたも彼女が握った焼きおにぎりを食べてみませんか?」
「が、がんばります!!」
 由夢がおにぎりを作る様子は意外にもサマになっていた。
「いや、違う。違うな……」
 なんていうか、こう――たどたどしいのだ。
 料理に慣れていないけど、不器用ながらも頑張る女の子……に見えてしまうのだ。
 実際そうなのだが。
 そうなると少しばかりカタチの悪いおにぎりが、聖なる供物に見えてくるから不思議だ。
 おかげで、昼飯時はとうに過ぎたというのに、行列が復活してしまった。
「頑張ってよ、1年生!」
「ありがとうございます、頑張ります」
「僕はこの娘が握ったヤツをちょうだい」
「ありがとうございます、頑張ります!」
 由夢はさっきから『ありがとうございます』と『頑張ります』しか言ってない。
 表情も『いっぱいいっぱい』といった感じだ。
 それがやけに可愛く見える……。
「……う〜む、いいのか悪いのか」
「うぐっ!!」
「ぐふっ!!」
 先ほど、由夢から焼きおにぎりを買った連中が、歩行者用の信号機のように青い顔を点滅させたり、赤くなったりしているのが気になった。
 が、もう手遅れなのだ。もはや俺にできることはない……。
 できるとすれば……、
「はい。こちらはベテラン委員長の握ったおにぎりだよ! お客様方が、新人のたどたどしい味を楽しみたい……という気持ちもよくわかります。ですが、玄人(くろうと)の味もまた格別!! お口直しにどうぞ!」
 こうやって、由夢のおにぎりを食べた人に『自己責任』という意識を植え付け、口直しにもう一個買わせるしかない……。
「……あはははは」
「く、口直し!? むぅ! もう、頑張るんだから!」
 と由夢が目じりに涙を浮かべながら、新たなおにぎりを握る。
 それを健気に思った客がまた購入――。
「ぐぼぁ!!」
「さあさあ、ほんわかほわほわ家庭の味、月島小恋の握ったおにぎりはこちらですよ〜。お客様方が、若人の前衛的かつ実験的な味を楽しみたい……という気持ちもよくわかります。ですが、おっかさんの味もまた格別!! お口直しにどうぞ〜!!」
「あ、あはははは……」
「む〜!!」
 こうやって、よくわからない循環が発生し、焼きおにぎり屋の行列は絶えることなく続いたのだった。
 いくら由夢の握ったおにぎりでも、食中毒は出ないと思うし……。
「うごるぁ!!」
「………………」


「……ふう」
 由夢が戦列を外れて、紙コップに注がれたお茶をコクンと飲み干す。
「結構、疲れるね。お料理って……」
「料理というほどのことはしてないだろ……」
「それはそうだけど……」
 由夢が頬を膨らめる。
「俺や音姉が普段、どれだけ苦労してるか、少しはわかったか?」
 家での料理当番は大概(たいがい)、俺か音姉だ。
 二人で一緒に料理することもある。
「そんなの……わかってるもん」
「お前や純一さんは『かったるい』とか言って、一切、手伝ってくれないもんなぁ」
 まあ、今に始まったことじゃないけど。
「人聞き悪いなぁ。たまには手伝ってるじゃない……」
「年に一、二回だけだけどな」
「む……」
「おお、ここにいたか。桜内、朝倉妹……」
「あ、交代ですか?」
「いや。売り上げ的にも大分アドバンテージが出てきたようだから、そろそろ仕掛けようと思ってな」
「やっぱりやるのか?」
「やらない方がむしろ失礼だとは思わんか?」
「思わん……」
「やるって何をやるんです?」
「妨害工作」
「えぇ!? いいんですか?」
「いいか悪いかって言ったら悪いだろうな」
「ですよねぇ?」
「だが、やらねばやられるのだ」
「そうなんですか? 兄さん」
 由夢が俺を伺う。
「そうだな。相手は渉や杏だからな……」
 あいつらが、このまま手をこまねいているとは、到底、思えん……。
「桜内、お前ならまず、どこから攻めるべきだと思う?」
「そうだなぁ……」
 渉と杏のどちらが脅威かといえば、杏のほうが手強そうだ。
 やはり妨害するなら3組を重点的に潰すべきだろうか?
 ただ、渉自体はそれほど脅威ではないとしても、白河ななかの人気はあなどれない。
 それに、こちらが攻めに入っているときは、どうしても本陣が手薄になる。
 相手の妨害工作から身を守る為には、ここに残った方が得策なのかも知れない。
 俺はしばし考え込んだ。
 そして――、俺は結論を出した。
「渉自体は敵じゃないとは思うが、白河ななかの人気は脅威だ。まずは渉のクラスから何とかしようぜ」
 杏のセクシーパジャマパーティーとやらは明らかに学生の本分に反している。
 ならば放っておいても音姉たち生徒会が潰してくれるかもしれない。
 元々音姉はそういうの嫌いだし……。
「……そうか。ま、お前がそう言うんなら従うとしよう」
「あの……本当にやるんですか?」
「お前は残って、小恋や委員長の手伝いをしてろ」
「言われなくてもそうします」


〜あとがき〜
お久しぶりです。
肺炎で死にかけ、挙句の果てに入院していたうたまる神です。
いや〜、ひどかったですね。初日から39.2度あって、次の日は40.3度。その次の日は40.1度でその次の日なんか40.8度。よく死ななかったな〜。
まぁ、そんな私事は置いといて。
やはり由夢の料理の腕前はすばらしいですね、別の意味で。焼きおにぎりのどこをどう間違えばあんなものになってしまうのか、非常に興味深いです。
さて、次回はようやく杉並の破壊工作が始まります。進化した杉並の腕前に乞うご期待!

>ごまだんごさん
やはり白河一族はすごいですね。おそらくことりの娘(息子かもしれないけど)つまりななかの母も人気があったんでしょうね。あの優しさも祖母譲りです。
そして今回のおにぎりの変貌。楽しんでいただけたでしょうか? 次回は杉並の破壊工作を楽しんでいただけたらと思います。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
3日間も40℃越えを…よくぞご無事で。
病気は恐いです、ほんと。今は体調はどのようですか?気を付けて下さいね

>期待通り、といいますかやはりやってくれましたね、由夢ちゃん(笑)
親の遺伝子には争えない、というより進化を?

次回、杉並はどんなことをして勝利を呼び込むのでしょうか、楽しみです

ほにゃらば、失礼します
ごまだんご
2006/12/23 22:19

コメントする help

ニックネーム
本 文
第五話 料理の腕前 うたまる神の今日の言葉/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる