うたまる神の今日の言葉

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zoom RSS 第四話 偵察

<<   作成日時 : 2006/11/09 19:20   >>

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「終わったねぇ……」
 暇をもてあました俺が極太のようかん羊羹を食っているところに、小恋がやってきた。
 少々、目が潤んでいる。
「ん? もぐもぐ……何?」
「って、何食べてるの?」
「ん? 見てわからないのか? これは羊羹だ」
「それはわかるけど……」
「言っとくが、お前にはやらんぞ」
「別にいらないもん……。っていうか、今、そんなの食べてたら、焼おにぎり食べられなくなっちゃうよ。味見してもらおうと思ってたのに……」
「大丈夫大丈夫、和菓子は別腹だから……」
「太っても知らないからね……」
「大丈夫大丈夫……もぐもぐ……」
 実を言えば、俺には他人の夢を見せられてしまう、という特殊な能力の他に、もうひとつだけ不思議な力が使える。
 それは、子供の頃、純一さんが俺に教えてくれた『和菓子を出すことができる』というささやかな魔法だった。
 そう、俺は魔法使いなのだ。
 他に魔法が使えるわけじゃないけど……。
 この魔法は、いつでも和菓子が食べられる、という一見素敵なものだが、和菓子は術者の体内のカロリーから作られる。
 だから、自分で和菓子を出して自分で食べてもプラスマイナス0。いや、吸収率を考えれば微妙にマイナスかな?
 そういうわけで、味覚を楽しむことはできても食欲が満たされるわけじゃない。
 よく女の子が『甘いものは別腹』と言うが、俺の場合、自分で出したものに限り本当に『別腹』なのだった。
「……で、何だって?」
 羊羹の最後の一切れを呑み込んだ俺は、小恋に聞き返した。
「んもう。義之のせいで感動も台無しだよ……」
「いいから言ってみろよ」
「卒業式も無事終わったね、いい式だったねって言おうと思ったの!」
「ああ、そうだな。普通に良い式だった」
 俺は頷いた。
 卒業式が終わり、俺たちは卒業パーティーのための開店準備にいそ勤しんでいた。
 それにしても――
 杉並が騒ぎを起こさないだけで、これほどまでに穏やかで良い式になるとは正直、予想……していたけど。
 でも、音姉やまゆき先輩たちは拍子抜けした顔してたな……。
 厳戒態勢を敷いていたまゆき先輩は特に……。
 まあ、それほど俺たちにとって率パの売り上げが大事だったわけで。
「終わりではないぞ、月島。ここからが始まりなのだ」
「そうね。こうなったらとことん売りまくって、超豪華賞品とやらを拝んでやろうじゃないの」
 そういって眼鏡の奥を輝かせる委員長は、朝、渋っていた人間とは、まるで別人のようだった。
「それでは、これから開店準備を始めるが、開店したらお前はどうする?」
「ん? どうするって?」
「わたしたちと一緒に焼きおにぎり屋さんを手伝ってくれるんじゃないの?」
「それはそうなのだが、桜内にはできれば、午前中の内に2組か3組の偵察に行ってきてもらいたいと思ってな」
「ああ、なるほど……」
「まあ、桜内が行かないなら俺が行ってくることになるわけだが……」
「桜内が行った方がいいんじゃない? 杉並がうろついていると、皆、警戒するもの……」
「でも、逆に渉君や杏たちが偵察に来たときには、義之にいて欲しいよ……」
「そうだな……。そういうことなら、俺は、渉のクラスを偵察してくるよ」
「行ってくれるか……」
「なんてったって、あっちは学園のアイドル・白河ななかを前面に押し出してるからな……」
 何だかんだいって、今回の率パの本命に違いない。
「ななか、人気だもんねぇ……」
 小恋が複雑な表情でため息をつく。
 親友が人気で、嬉しいやら、悲しいやら、といったところか。
「こっちは任せたぞ、小恋」
「あはは……。ななかと張り合うなんて、ちょっと無理っぽいけど……頑張ってみるね」
「頼む」


 なんて飛び出してはみたものの――
 偵察なんてどうすればいいんだ?
 ここは普通に客として乗り込んでいけばいいのかな?
「お! 義之じゃねーか!」
 入り口の前でウロウロしていたら、早速、渉に見つかってしまった。
「渉……」
「なんだ? 偵察か?」
 ここまで来たら隠しても仕方がないか……。
「ん〜まあ、ぶっちゃけて言えばそんな感じかな?」
「結構結構。殊勝な心がけじゃねーか」
「そういうお前は何やってんだ?」
「見てわかんねーか? 呼び込みだよ、呼び込み。まあ、呼び込まなくても客入りは上々だけどな」
「そうか……」
「おーい、一名様、ご案内だ〜! 偵察だそうだから、丁重におもてなししてやれ〜!!」
 余計なことを……。
 中に入ってみると、確かに渉の言うとおりなかなかの客入りだということがわかった。
「こちらです」
 ウェイター風の生徒に案内されて、一番前の席につく。何故かテーブルの上に『VIP用』と書かれたポップがついていた。
 どうやらリザーブシートのようだ。
 気を使ってくれたのか、嫌味にも余裕を見せているのかは謎だったが、まあ楽しませてもらうことにしよう。
「御注文はコースのみとなりますが、それでよろしいですか?」
「何でもいいよ……」
 腹なら十分に空いている。
 しばらく待っていると、渉がマイクを持って簡易ステージに上がった。
「レディース・エ〜ン・ジェントルメ〜ン! これより、我らが2年2組の切り札にして、風見学園の至宝! 白河ななかのディナーショーが始まります! どうぞ、最後までごゆるりとお楽しみください」
 渉が両手をあげて、それから優雅に礼をする。それに合わせて場内から拍手が沸き起こった。
 ディナーショーって何だよ……。
 まだ、昼前なのに……。
「さあ、白河。出番だぞ」
「やだ」
「いいかげんあきらめて出てくれよ。後で埋め合わせは必ずするからさ」
「だって、板橋君、わたしはちょっと出るだけでいいって言ってたじゃない。どうしてわたしがメインなの? 何よ、白河ななかのディナーショーって……」
「そうしないと客が集まんないんだよぉ」
 何やら舞台袖でヒソヒソ話しているのが聞こえる。
 後ろの方の座席には聞こえないかもしれないが、最前列に座っている俺にはまる聞こえだ。
「わたし、人前で歌うのとか苦手だって言ったよね?」
「あ、ああ……。だったら、歌わなくてもいいから、とりあえず出てくれよ。頼む、皆の為に!」
「皆の為って、板橋君……豪華賞品が欲しいだけでしょう?」
「をを! 何故それを!?」
「と、いうわけで……ごめんね☆」
「あぁ!! 待っ……」
 何をしてるんだか……。
 俺が呆れていると、舞台袖から再び渉がヘコヘコしながら現れた。
「えー、本日の主役が、ただいまお色直しに手間取っておりまして……料理を先にお出ししますので、もうしばらくお待ちください」
 マイクでそれだけ言うと慌てて袖からはけていった。
 一回も出てきてないのに『お色直し』ってどういうことだよ……?
「どうしたの?」
「それがね……(ひそひそ)……」
 何やら不穏な空気が流れているなぁ。
「えぇ!? ななかちゃんが逃げ(もごもご)」
「しぃ! だからね、手空きの人がいたら、そう。うん……お願い。ここは私たちに、うん」
 ウェイター風の生徒が慌てて教室を飛び出していく。
 ……なるほど、そうか。逃げられたか。
 その場の雰囲気をごまかすためか、BGMがかかる。
「おまたせしました〜」
 ウェイトレスの格好をした生徒が、必要以上ににこやかな笑顔で飲み物を運んできた。
「どうも……」
「ごゆっくりどうぞ〜」
 早く自分のクラスに戻りたいんだけどな……。
 そう思いながら、出された飲み物――アイスコーヒーだった――に口をつける。
 ん〜、味は悪くない。いい業者に注文したんだな。
 この辺りに抜け目ないのはさすが渉といったところだ。
 が、肝心の主役の同意がとれてないっていう詰めの甘さが笑える……。
 しばらくして、客たちも異変に気づいたのか、部屋が少しざわついてきた。
「ななかちゃんまだ?」
「なんかおかしくねぇ?」
「もうちょっとですので、お待ちください♪ お料理運んできますね」
 …………。
 フォローしてやりたいが、敵に塩を送るっていうのも柄じゃないしな……。
 もうちょっと様子を見るか。
 そう思いつつ、運ばれた料理を口に運んでいると、ステージ上に再び渉が現れた。
 心なしか肩で息をしているように見える。
「お、お待たせしました! それでは、本日の主役、白河ななか嬢の登場です! 皆さん、盛大な拍手でお出迎え下さい!!」
 お、なんとか説得できたらしいな。俺も周囲にならうように拍手をした。
 その拍手に応えるように舞台袖から、白河ななかがマイクを持って登場する。
 白河の表情から明らかに『しょうがないなぁ』という感情が読める。
「どうも。皆さん、こんにちは♪ 白河ななかです。勝手にスケジュールを組まれてしまったので、ボイコットを試みたのですが――司会役の板橋君に土下座までされてしまったので、やっぱり出ることにしました」
 ……土下座したのか。
「こ、こら、白河。そこまで正直に言うなよ」
「だって、普通しないよ〜土下座なんて」
「ふっふっふっふっ。俺は目的のためなら手段を選ばない男なのだ」
 だからって、プライドくらい持とうぜ……。
「はぁ……。そんなに欲しいんだね、超豪華賞品ってやつ……」
「ん〜なの当たり前だろ! 現世利益こそが俺の信条だ」
「……だそうです。皆さん、売り上げにバンバン協力してあげてくださいね♪」
「お〜!!」
「お、さすが、白河ファンのヤツらは食いつきがいいな。もういっちょ行くぞ。協力してくれよな〜!!」
「………………」
「ん? 元気ないぞ。もういっちょ、協力してくれよな〜」
 ――シーン……
「協力してくれ〜!!」
 ――シーン……
「あらら、ノリ悪いですな……」
「そんなことないよ。協力してくれるよね、みんな!」
「お〜〜〜〜!!!」
「ほらね」
「俺だとダメか〜。そ〜か〜、世の中はわかりやすいなぁ。涙でかす霞んで前が見えないや……」
「まあまあ、そう気を落とさないで」
「まあ、白河も出てくれたことだし、司会者は退散するよ……」
「ちょっと待ってよ。出てきたのはいいんだけど、わたしは何をすればいいの?」
「え、何って……」
「ななかちゃん、歌って〜!!」
 観客の一人が大声でリクエストする。
 まあ、ディナーショーっていうくらいだから、歌うのは普通だろうな。
「……だって」
「え〜、人前で歌うのはちょっと……ごめんなさい」
「俺も歌って欲しいんだけど、無理矢理歌わせたら、白河やっぱ逃げる?」
「うん。逃げる♪」
「……だってさ」
 渉が肩をすくめて、客たちに目配せする。
「一応、軽音部の連中にスタンバってもらってはいたんだけどね……残念」
「じゃあ、こうしよう。バンドの人たちに演奏してもらいながら、トーク! トークショー」
「漫談でもやろうってかい?」
「そういうのじゃなくて、普通のトークだよ」
「まあ、じゃあ皆の質問を交えつつ、インタビュー形式から膨らめていくか……」
「さんせーい♪」
 すでにこうやって二人がマイクを持って話しているだけで、それなりのトークショーにはなっていた。
 さすが軽音楽部の渉だ。ステージ慣れしてるってとこだな。
 そして、白河はといえば可愛さ、声、仕草、喋り方……すべてにおいてステージ映えしている。
 学園のアイドルと呼ばれるだけはあるな……。
「じゃあ、何かお前ら質問あっか〜? 挙手しろ。挙手」
「はーい」
「んじゃ、そこの君」
「撮影はしてもいいんですか〜?」
「そっちの質問かよ。……どうする?」
「いいんじゃない? 可愛く撮ってくれるなら」
「ん〜、まあ常識の範囲内でな……」
「どういうこと?」
「ほら、あるだろ。ステージの下からパンチラ写真、とか……」
「え〜、そんなの撮る人なんていないよ〜」
「いるんだって。世の中にゃ……」
「そうなんだ〜。えっちな写真は撮らないでね」
「撮影の際に席を移動するのはNGだ。あと、売ったり、ネットで配布したりするのもダメだ。見つけたらぶっ殺すから覚えとけ」
「よろしくね♪」
「んじゃ〜次の質問あるヤツ――」
 そんな感じでショーは進行した。
 トーク自体はそこそこ楽しかったし、料理も悪くない。
 出し物としてはきゅうだいてん及第点だな。
 ただ、一日に数回ショーをやるにしても、回転率が悪いのは否めない。
 これならやり方次第では、うちのクラスの焼おにぎりでも対等の戦いができそうだった。
「あ、兄さん。いないと思ったら、こんなところにいたんですね?」
 『白河ななかディナーショー』を終えて教室から出たところで由夢に出くわした。
「あれ、由夢……」
「せっかく兄さんのクラスの売り上げに協力しようと思って行ったのに、いなかったから探しちゃいましたよ」
 周囲の目があるため、今の由夢は完璧な敬語だ。こういうのもバイリンガルというのだろうか?
「ああ、悪いな。ちょっと偵察に……」
「白河ななか先輩のディナーショーですか……。ちょっと見たかったかも」
「知ってるの?」
「有名ですもの……」
「そっか。そうだよなぁ……。あれだけ可愛けりゃ名も知れ渡るか……」
「ふん。どうせわたしは可愛くないですよ」
 何故か由夢は、ぷいっと顔を背けた。
「……は? そりゃどういう飛躍だよ」
「別に」
「ともかく、俺は見てきたことを報告せにゃならんから、クラスに戻るぞ。お前も来るか?」
「兄さんがどうしても来てほしいんなら行きます」
「あっそ……」
 俺は焼きおにぎり屋へ向かって歩き出した。
「……って、ちょっと。兄さん! 行っちゃわないでくださいよ! 待って……」


〜あとがき〜
さて、とうとう白河家がでてきました。相変わらず歌が好きなようですが、人前で歌うのは苦手みたいです。これからの活躍に期待できそうですね〜。
ちなみに次回は由夢が焼おにぎり屋を手伝うことになります。料理の腕前は祖母譲り……。ただのおにぎりなのにどう失敗するんだろう。
それでは次回。

〜ホタルさん〜
ほんと、さすが風見学園ですね〜。
余談ですが、音夢が没収していた空飛ぶ自転車、あれは55年経った今でも開発され続けているようですよ。非公式新聞のバックナンバーも半世紀分保存されています。歴史を感じますね。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
白河家は代々魅力的みたいですね。性格は違うみたいですが
結局ディナーショーに参加しているあたりは優しさがあります

>次回、おにぎりがどう変貌するのでしょう(笑)
ごまだんご
2006/11/24 13:23

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