うたまる神の今日の言葉

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zoom RSS 更新できなかったお詫び、ということで。

<<   作成日時 : 2007/04/14 12:32   >>

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はい、約半年ぶり(正確には約4ヶ月ぶり)の更新です。
いやぁ〜、高校入試は辛いですよ。
いままではとっても忙しく、更新してる暇なんてありませんでした。ごめんなさい。
他にも空手で黒帯取ったりとか、県大会で史上初の3連覇したりとかetc
とりあえず、お詫びの意も含めて残りの物語を一気に展開しちゃおうと思います。
ではごゆるりとお楽しみください♪



「いらっしゃい、いらっしゃい。白河ななかディナーショー、このステージが最終の回ですよ〜」
 部屋の前で渉が呼び込みをしているのが、遠目に見えた。
 白河のショーはステージ形式だから、タイムテーブルが組まれているというわけだ。
 客入りは最終回も上々のようで、長蛇(ちょうだ)の列ができあがっている。
「白河人気はハンパではないな……」
「さて、どうする?」
 俺は杉並に問うた。
 一概に妨害工作と言ってもいろいろある。
「手っ取り早いのは爆破だが……」
「はぁ?」
「こんなこともあろうかと、あの教室には爆発物がセットしてあるのだ」
「んなもんいつ設置したんだよ?」
「ん〜、半年くらい前かな?」
「……このイベントとは関係ないってことか?」
「備えあれば憂い無し、というではないか」
 その手のトラップが常日頃から学園中に仕掛けられているというわけか……。
「却下だ。狭い教室に大勢がひしめいているからな。爆発系は危険すぎる」
「大丈夫だ。威力は弱めてあるから、けが人は出ても死人は出んと思うぞ」
「思うじゃ困るんだよ。それに、けが人の時点でかなりアウトだろ……」
「むう……ならばどうする?」
「ステージそのものをどうこうするより、本丸である白河ななか本人をどうにかした方がいいんじゃないか?」
「具体的には?」
「どこかにおびき出して、ショーに出られないようにする、とか」
「するってーと拉致だな。やはり鬼畜系主人公は考えることが違う……」
「誰が鬼畜系だ……」
「桜内」
 即答かよ。
「あのな……」
 俺はため息を吐くと、補足するように言葉を続けた。
「ど〜やら、このショーの企画自体、渉に無理矢理押し通されたみたいで、白河自身は乗り気じゃないんだよ」
「なるほどな。なら、白河を自主的にボイコットさせるというのが、手っ取り早いというわけだ」
「口で言うのは簡単だがな。問題はどうやって実行するか、だ。俺たちが白河に近づいたら、渉に感づかれちまうだろうし」
「怪しまれずに白河に近づければいいんだな?」
「ああ」
「ならば俺に考えがある。来い」
 杉並は不敵な笑いを浮かべた。
 ………。
 ……。
 …。
「何だこれは……」
「見ればわかるだろう」
「残念ながら俺からは見えん。それにな、視界もものすごく狭くて落ち着かん」
「安心しろ。どこからどうみても立派な熊さんだ」
「なるほど、そりゃ安心……するわけねーだろ! こんなもの一体どうしたんだよ?」
 俺は何故か杉並に熊の着ぐるみをを着せられていた。
「演劇部の部室にあったものを使わせてもらった」
「勝手に持ってきたのか?」
「こっそり持っていこうかとも思ったのだがな、念のために『雪村杏から持ってくるように頼まれた』と言っておいた」
 そういえば杏は演劇部だったっけ……。
「着てからいうのも何だが、何故、熊の着ぐるみなんだ?」
「身元がわからない方がいいと言ったのは桜内だろう?」
「そうはいったが、これじゃ返って目立つだろ」
「大丈夫だ。卒パの真っ最中に生徒が着ぐるみで歩いていても何の問題もないであろう? それどころか、この風見学園には着ぐるみ姿で通常授業を受けても誰も気にしてくれない、という伝説があるのだ。まあ、熊限定らしいが」
「なんだよそりゃ……」
「出所はわからん。が、そういう伝説があるのだ」
「……淋しい伝説だな」
「ともかく、お前はその格好で白河に接触して、あわよくば連れ出せ」
「はあ」
「下調べによれば、白河ななかはかなり悪戯好きな面があるようだ。だから、案外ひょこひょこついてくるかもしれん」
「そんなに上手くいくかなぁ……?」
 ………。
 ……。
 …。
 実際、杉並の言うとおり、熊の着ぐるみ姿で校内を歩いていても、別段、特別視されることはなかった。
 他のクラスの呼び込みをしていた着ぐるみ姿の生徒が『お互い大変だな』と声をかけてきたくらいか……。
「それにしても、この着ぐるみ……ダボダボして歩きづらいな……」
 ――などど文句を言ってみたところで、今更、何がどうなるわけでもない。
 ともあれ、俺は渉たちの出し物のある教室の前にやってきた。
 入り口がそっちだから、控え室は――
 こっちの扉かな?
 そっと隙間を開けて覗き込んでみる。
「ぐ……あまりよく見えん……」
 着ぐるみの視野が狭いこともあって、控え室の中はよく見渡せなかった。
 白河はどこだ……?
「……………………」
「………………」
 ……いた。
 というより目が合った。
 意外とすんなり見つかったことに拍子抜けしつつ、俺は手招きしてみた。
「ん?」
 白河は俺の姿に驚いたのか一瞬目を丸くしたが、すぐに瞳に悪戯っぽい笑みを浮かべて、こちらへやって来た。
 どうやら、控え室には白河しかいないらしい。
「こんにちは、熊さん。ななかに何か御用?」
「囚われの姫君を解放しにやってまいりました」
「囚われ?」
「ええ。聞けば姫君は、卒業パーティーを見て回ることもできず、出たくもないディナーショーとやらに無理矢理参加させられている御様子」
「そう言われればそんな感じかな?」
「私と一緒に逃げましょう」
 俺はそう言って手を差し伸べた。
「あは。面白そうね」
 白河はクスリと笑うと俺の差し伸べた手――というか着ぐるみの手だけど――を取った。
「……………………」
 そして、真剣な顔で2、3秒沈黙。
「なるほどね〜、そういう趣向か。乗った♪」
「???」
「ああ、何でもないの。行きましょう、熊さん」
「こちらです」
 俺は白河の手をとりながら、大急ぎでその場を離れた。
 ………。
 ……。
 …。
 着ぐるみ姿で走っていれば、いくら過ごしやすい気候の3月といえど、暑苦しくなる。
 俺は息を切らしながら、中庭までやってきた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
「あらら、熊さんったら、見かけによらず、スタミナないのね」
「冬眠から覚めたばかりだからな……」
「なるほど……そう来るか……。ねえ、あなた、名前は?」
「熊に名前なんてねーよ」
「柄悪いなぁ、さっきまでは敬語だったのに」
「ああ、申し訳ございません、姫君」
 俺は恭(うやうや)しくお辞儀をした。
「よろしい。では、熊、お名前を教えてください」
「だから、熊に名前は……」
「熊だって名前はあるでしょう」
「そーか?」
「そーよ」
 言い切られてしまった。
「ん〜、そうだな……」
「うん」
「じゃあ、ドナテルロ熊で……」
「よろしい。では、ドナテルロ。ほとぼりが冷めるまで、卒パを案内しなさい」
「えぇ!?」
「連れ出したんだから、そのくらいしてよね」
「しかし、姫。それでは追っ手に見つかってしまいます」
「……そのときは、ドナテルロが守ってくれるんでしょ?」
 白河はそう言ってにっこり微笑んだ。
「……かしこまりました、姫」
 自分たちの出し物や渉や杏たちのことばかり気にかけていたせいで、あまり気にしていなかったが、卒パの会場は普通に賑わっていた。
「賑やかだね〜」
「そうですね……」
 白河は着ぐるみの袖にあたる部分をつまむように掴んで、俺についてくる。
「あ、あれ見て見て〜」
「はい……」
「あ、あっちも面白そう……」
「はいはい……」
 二人で卒業パーティーの出し物を見て回る。
 何だかちょっとしたデート気分だ。
 学園のアイドル的存在とデートか。悪くない。
 悪くはないが、残念なことに俺は熊だった。
 と、走り回る生徒たちの足音が廊下に響く。
 あれは渉のクラスの生徒たちだ。
「隠れて」
「うん……」
 俺は空いている教室のドアを開けると、白河を中へ導いた。
 俺のすぐ近くに数名の男子生徒たちが集まって、口々に情報交換を始めている。
「いたか?」
「いや……。そっちは?」
 生徒たちは首を横に振る。
「どこ行っちまったんだよぉ、ななかちゃん……」
「もう一度、手分けして探そう!!」
「ああ!!」
 頷き合うと、生徒たちはまた散開した。
「もう行った?」
「行きましたよ」
「ふう……。楽しいね」
 白河は微笑みながら、隠れ場所から出てきた。
「ふふ。今頃、会場は大慌てだろうな〜」
「良かったのかな……」
「何、ドナテルロってば……。自分が誘い出したくせに」
「まあ、勢いでつい、な……」
 言葉遣いも戻ってしまったが、おかまいなしだ。
「ふふ。変なの……」
「………………」
 まあ、これで渉のクラスの収益見込みに大きく打撃を与えられたのは確かだろう。
 ちょっとだけ、良心が痛むな……。
 ま、ちょっとだけだが。
「あ、ドナテルロ。あれ、食べよう」
 『焼きそば』の文字をを目ざとく見つけた白河は、焼きそばを売っている屋台を指差した。
 が、残念なことに俺は売り物の焼きおにぎりを試食していたせいで腹はそれほど減っていない。
 それに、食べるためには熊の頭をはずさなければならない。
 顔を出したくなかった俺は、首を横に振った。
「熊は人間の食すものは食わんのです」
「えー、熊は雑食でしょ」
「それでも食えんのです、構造上」
「鮭おにぎりも?」
 何故、ピンポイントで鮭おにぎり……?
「だから、何も食えませんって。姫だけでもお食べくだされ」
「ん〜、そーする。じゃあ、ついてきて」
 白河は俺の手を引いて焼きそば屋まで移動した。
「すみませーん、焼きそばくーださい!」
「はいよ。そっちの熊さんの分もかい?」
「熊さんは構造上食べられないそうなので、わたしの分だけ」
「はいよ。毎度あり! 300円です」
「あ……」
「どうしました?」
「お財布、バッグの中だ。控え室に置いてきちゃった……」
「キャンセルかい?」
「あう〜食べたいなぁ……」
「ああ、払います」
「え、ホント? ありがとう!」
「払うんだけど……ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
「ズボンのポケットに財布が入ってるからさ、背中のジッパーを開けて、取ってくれないかな?」
「……ふふ。は〜い♪」
 ……………………。
「さ、買ったよ。ドナテルロ、向こうで食べよう」
「だから、俺は食わないって」
「いいから行くよ」
「へいへい」
 ………。
 ……。
 …。
「ん〜、美味しい……」
 数分後、俺たちは校庭脇のベンチに座っていた。
 白河は本当に美味しそうに焼きそばを食べている。
「本当にいらないの?」
「別に腹へってないしな」
 死ぬほど焼きおにぎりを試食したし……。
「そう? わたしはぺっこぺこ。休みなしでショーやってたから……」
「そうなの?」
「うん。だから、楽しいよ。こうやって逃げるのも」
 渉め。いくら忙しいからってメシ抜きでやることないのに……。
「ったく、白河のヤツ……どこ行っちまったんだよ……」
 ん……?
 今、見知った顔が通りかかったような……?
「あれ? 今、何かいたような……」
 少し離れた場所で、渉が脚を止める。
「やばい、板橋君だ!」
「か、隠れろ」
「どど、どこに!?」
「え〜と、え〜と……」
 俺は立ち上がり、慌てて周囲を見回した。
 が、人間が隠れられそうな場所が見当たらない。
 視界が狭いせいもあって気ばかりがあせる。
「ど、ドナテルロ、ごめん!」
「え!?」
 白河は俺の背後に回りこむと着ぐるみのジッパーを下げて――
「おじゃましま〜す」
 着ぐるみの中に入ってきた。
「ぐは……!!」
 元々、着ぐるみの中は大きめの人間でも着れるようにするためか、かなり余裕のある作りだった。
 だからといって、人間が二人入ることを想定して作られているわけではない。
「ご、ごめんね。狭かったね……」
 つまり、どういうことかというと――
 白河の身体が――
 俺の背中に密着して――
「……………………」
「ど、どうしたの?」
「いや、そ、その……」
 背中に柔らかい感触が――
 ――心頭滅却(しんとうめっきゃく)、煩悩退散(ぼんのうたいさん)。色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)。ナウマクサンマンダバサラダンカン。
「……ご、ごめん」
 謝る白河の吐息が首筋にかかる。
 それだけで俺の鼓動は1.5倍速になってしまった。
「い、いや……。どうってことないぜ……」
 俺は自分の中にあるはずの自制心を総動員した。が、まだそれでも足りていないような気がする。
 世界中の皆ぁ! 皆の自制心をオラにホンの少しだけ分けてくれぇ!!
「ふう……ふう……」
 俺が自制心を総動員している間に、渉が戻ってきた。
「なあ……」
「ふう……ふう……」
「おい、聞いてるのか? なあ、そこの熊の人」
「な、なんだね、青少年……」
 俺だと悟られないように声色を変える。
「うわ、可愛い面して意外と渋い声だな……」
「このギャップが売りなんでね……」
「そうだったのか。悪い」
「いいから用件を言え」
「ああ、そうだった。えーと、この辺りで『白河ななか』を見なかったか?」
「シラカワ? 誰だそれは……」
「え、白河ななかを知らないのか? 長い髪を黄色いリボンで結(ゆ)わえた……バッテンの髪留めをしてる可愛い娘なんだけど……」
「ああ、そんな感じの娘なら見たぞ」
「ど、どっちに行った?」
「向こうに走っていくのを見たぞよ」
「ぞよ!? っと、あぁ喋り方につっこんでる暇はなかった……。向こうだな?」
 俺は人通りの多そうな方角を指差した。
「いかにも」
「恩に着るぜ!」
 渉は頷くと、俺が指し示した方角へと走っていった。
「ふう……」
「行ってくれたねぇ。ほぉっ……」
 白河の暖かな吐息が首筋にかかる。
「わ、悪いが早く出てくれないか? どうにかなっちまいそうだ」
「あ、ご、ごめん。すぐ出る」
 白河が俺の背後でモゾモゾ動く。
 そのたびに柔らかい胸が――胸がぁ――。
「……あ、あれ?」
「どうした?」
「じ、ジッパーが……。さっきは後ろ手に締めたから……上手く……えい! えい!」
「ぐはぁ! もぞもぞ動かれると!」
 柔らかい――ダメだ――。
 それにすごくいい匂いが充満して――
「ご、ごめん……。あれ……? おかしいな。えい! えい!」
 白河が動くたびに、俺の背中を柔らかい感触が蠢(うごめ)いていく。
 何なんだ、この極楽地獄……。
(……い、いっそ、殺してくれ)
「あの〜ちょっと聞きたいんだけどさ、その娘って――」
「きゃあ!!」
 渉が急に戻ってきて声をかけてきたことに驚いたのか、背後の白河が声をあげてしまった。
「ん? そんなに高い声だっけ?」
「い、いや。発声練習をちょっとな……キャア!」
 俺は裏声をあげてみた。
「どうだ? 結構、上手いもんだろ。キャア!!」
「……なんか変だな」
 渉は眉をしかめると、熊の着ぐるみをジロジロと見始めた。
「そこはかとない違和感が……」
 言いながら俺たちの背後に回りこむ。
「何かさ、あんた、やたらと厚みがある気がするんだけどな……」
「体形を気にしておるのだ。そのことは言わんでくれ……」
「なんか入ってるんじゃないか?」
 渉はそう言って背中をバンバンと叩いた。
「…………ひぃ」
 叩かれた白河が余計に俺に密着する。
「ぐぬぬぬぬ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 着ぐるみの中の暑さ、二人の汗、さらに増した密着度……どうにかなってしまいそうだった。
 ドクドク――
 ドクドクドク――
 心音が響く。
 この鼓動は白河のものなのか、それとも俺のものなのか……。
「おっと、こんなところにジッパー発見。ちょっと開けさせてもらうぜ」
 万事休すか……。
「白河ななかを発見したぞーーー! 体育館の方だーーー!!」
 どこからともなく叫び声が響いた。
「何だと!?」
「皆、こっち。こっちだー!!」
「おい、熊の人、疑って悪かったな。俺は行かせてもらうぜ!」
 両手を合わせると、渉は声のした方向へ走っていってしまった。
「白河あぁ〜〜〜! 戻って来おぉ〜〜〜〜い! 戻ってきておくれぇ〜!!」
「…………ふう」
 ようやく行ってくれたか……。
 今のは杉並の声だな。助かったぜ――。
「あ……、板橋君がジッパーを少し開けてくれたおかげで出られそう……」
 白河は嬉々として背中を開いた。
「よいしょっと……」
 着ぐるみから出た白河は、ジッパーを再び締めると、俺の前にひょっこりと顔をだした。
「ふう、暑かった。ごめんね、ドナテルロ……」
「い、いや……」
「ドナテルロの心臓の音、ばっちり聞こえちゃった。ドクドクしてたよ」
「ぐ。ドナテルロは熊の世界でもウブな方なんだよ。忘れてくれ」
「でも、えっちなこと、考えてたでしょ?」
「ば、そ、それはあんなに密着されたら誰だって……」
「なんてね……ごめんね」
 白河は舌を出しながら、両手を合わせて可愛く謝った。っていうか、実際可愛い。
「そ、そんなことより、焼きそば食えよ。冷めちまうぞ!!」
「えへへ……。うん。ところでさぁ」
 食事を再開した白河が、焼きそばを食べながら聞いてきた。
「ん?」
「なんで脱がないの? それ」
「脱ぐ? どれを?」
「熊さんの着ぐるみ。暑いでしょ?」
「バカヤロ。これは皮膚だ。俺様の皮膚」
「背中のジッパーは?」
「ない! そんなものは存在しない!」
「わたし、開けたよ? 中にも入ったし……」
「それは妄想だ。過去を捏造(ねつぞう)するな! ないものはない!」
「ないの?」
「断じてない! 存在しない!」
「……ああ、そういえばそうでした。ドナテルロは正真正銘の熊でした。これでいい?」
「わかればよろしい」
「……じゃあねぇ、質問に答えて」
「どーぞ」
「さっきはどんな気分だった?」
「さっき?」
「わたしが中に入ったとき……」
「だからそれは妄想だって……。恥ずかしいこと思い出させんな」
 今、思い出しても心臓がバクバクする……。
 背中に当たる柔らかな感触、体温、そして白河の匂い。
「恥ずかしかったんだ〜」
「だーかーらー」
「あはは。ごめんごめん……その握り拳を鎮めて。どうどう、どうどう……」
「ふう……ふう……」
「……じゃあ、質問を変えるね」
「そーしてくれ……」
「ドナテルロ、熊の生活はどう?」
「……へ? どうって?」
「人間とどう違うの?」
「まあ、人間の暮らしがわかんないから何ともいえないが……楽じゃねーな……。熊には熊なりの苦労があるってもんだ……」
「そうなんだ……」
「まあ、楽な生き物なんていねーよ。皆、何かしら苦労してるもんさ……」
「あは……。それもそうだね」
 白河は頷くと、嬉しそうにコロコロと笑った。
「ごちそーさまでした♪」
 白河は焼きそばを食べ終えると、割箸を置いて手をあわせた。
「さーて、そろそろ戻ろうかな……」
「戻るの?」
「うん。ショーの時間もまだあと5分くらいあるし、根気強く残ってるお客さんがいるかもしれないから」
「そっか」
「楽しかったよ。やきぞば食べられたし……」
 白河は立ち上がる。
「ああ、焼きそばのパックは捨てておくよ」
「うん、ありがと。じゃ、またね」
「ああ……」
 ドナテルロ熊は今日限りだけどな……。
「あ……」
 去りかけた白河は一瞬立ち止まって振り返る。
 そして――、
「またデートしようね♪ 今度は人間の姿で。それと、小恋によろしく!」
 そう言って微笑むと、駆け出していった。
「………………」
 白河のヤツ、何で俺が小恋のクラスの人間だってわかったんだろう?
 ………。
 ……。
 …。
「戻ったぞ〜」
 熊の着ぐるみを演劇部の部室に戻し、へとへとになりながら焼きおにぎり屋へ戻ると、何やら騒然としていた。
「ん? どうしたの?」
「あ、兄さん……それが……」
「さっき軽音楽部の人たちが来てね、急にわたしたちの店の前で演奏を始めてね……お客さんを寄り付かせなかったの」
「何だって?」
 軽音楽部といえば渉の所属する部活だ。つまり、この妨害工作は渉の仕業に間違いないだろう。
「ホント、煩(うるさ)かったです」
「……渉の仕業か」
「うん、多分……」
「月島さん、あなたも軽音楽部じゃなかった?」
「そうだけど……わたしの言うことなんて誰も聞いてくれないよ」
「そっか。それじゃ、俺たちと渉のクラスはプラスマイナス0か……。杏のクラスに負けるかもしれないな……」
「その辺りは心配ない」
 いつの間にか戻っていた杉並が割って入った。
「何でだ?」
「俺が『善良な一般生徒』を名乗って生徒会に摘発しておいた。心配せずとも生徒会(あいつら)が徹底的に叩き潰してくれるだろう。特に朝倉姉がな……。普段は俺たちの邪魔ばかりする敵にもたまには役に立ってもらわないとな」
 杉並はそう言って高らかに笑った。
「お前が敵じゃなくて、ホント良かったよ」
「褒めるなよ」
「褒めてねーよ……」
「とにかく、今はできるだけ売り上げを伸ばそうよ」
「そうですね。そろそろ値下げとかも始めた方がいいんじゃないですか?」
 由夢が鋭い指摘をする。
 たしかに終了間際には売り切りを目的とした値下げが有効か……。
「そうね」
「よし、時間ギリギリまで売って売って売りまくろう」
「ああ」
 俺たちは頷きあうと円陣を組んだ。
「よし、頑張るぞ」
「「「「「おーーーーーー!」」」」」


 そうこうしているうちに時間は経ち、卒業パーティーも終わりの時がやってきた。
「……えー、皆さんのおかげで卒業パーティーを盛大に執(と)り行うことができ、私は大変満足しております。卒業生の方々から渡されたバトンを次代に手渡すその日まで、我々の手でこの風見学園を盛り上げてまいりましょう」
 生徒会長が深々とお辞儀をする。
 今日は特に暴走していないようだ。
 卒業式の時に人目もはばからず前会長の名前を呼びながらボロボロと泣いていたので、スッキリしたのかもしれない。
「それでは、皆さんお待ちかね。卒業パーティーでの売り上げ上位クラスを発表したいと思います。もちろん、当初の予定通り、超豪華賞品を用意していますので、皆さん、楽しみに待っていてください。では、発表の方を、朝倉さん、高坂さん、よろしくお願いしますね」
「「はい!」」
 生徒会長に呼ばれ、音姉とまゆき先輩が壇上に上がった。
 いよいよ、最優秀クラスの発表か……。
「ドキドキするね……」
 小恋が胸に手を当てながら紅潮していた。
「やれるだけのことはやったろ?」
「そうかなぁ?」
「……と思う」
「どうかなぁ?」
「まあ、落ち着け。月島」
「だって……」
「売り上げは上々だったじゃないか」
「だからだよ。一位の可能性がまったくないなら、こんなにドキドキしないもん」
「それもそうだな……」
「杏のクラスとか、渉君のクラスとか、人気あったみたいだしさ……。ああ、結果発表かぁ……聞きたいような聞きたくないような……」
「落ち着きなさいよ、月島さん。みっともない」
「うう、どうせわたしはみっともないですよぉ」
「いいから落ち着け。今ここで泣いても笑っても、結果は変わらないんだ」
「それもそうだね。少し黙ってるよ……」
「まあ、今回は俺も確かな手ごたえを感じた。いけるはずだ。信じろ、月島」
「うん……」
 などと俺たちがやりとりしている間、『健闘賞』だの『生徒会賞』だのが発表されていた。
「それでは、お待ちかね。総売上のベスト3の発表です」
「来た!」
「どきどき……」
「もったいぶってもしょうがないので、一気に発表しますね。音姫……」
 まゆき先輩が音姉を促す。
 音姉はコクンと頷くと、マイク片手にメモを読み上げた。
「うん。では、発表します。今年の卒業パーティーの売り上げ第3位は……」
「いくらなんでも、3位だけは避けたいな……」
「同感だ……」
「本校1年3組の焼きそば屋です」
 あれ?
 上位3位までは付属の2年だけで三(み)つ巴(どもえ)の争いを繰り広げていたのではなかったのだろうか?
 俺たちの知らないところで、差を詰めていたとは、さすが本校生。やるな……。
「続いて、第2位の発表です」
「健闘しましたね。付属の1年生です。付属1年1組! チョコバナナ、私も食べました。おいしかったです」
「……どういうこと?」
 俺たちが妨害しあっている間に、ウサギとカメの童話よろしく追いつかれたのか?
「だからって付属の1年生に追いつかれちゃうなんて……」
「若いのを甘く見ると痛い目見るってことだな」
「でも、次はいよいよ1位よ」
「勝てるよね? 勝てるよね?」
「第1位! 心して聞いて頂戴」
「第1位は――」
 会場内をドラムロールが響き渡る。
「2年1組!」
 き、来た!! 豪華賞品!!
「わぁ♪」
 小恋が歓声を上げる。
「やったわね!」
「当然だ……」
 俺たちは目を見合わせて頷きあった。
「こらこら、音姫。2年1組だけじゃわからんだろ?」
 ――へ?
「あ、そうでした。ゴメンなさい。第1位は、本校2年1組! メイド喫茶でした。コスチューム、可愛かったですねぇ」
 俺たちは再び顔を見合わせた。皆の頭上にクエスチョンマークが浮かんでいるように見える。
「ど、どういうことだ!? 俺の調べでは……」
「本校2年1組の方々には、後ほど、生徒会特製の超豪華賞品をプレゼントいたしますね」
「なお、驚異的な売り上げを記録した付属2年1組、2組、3組の三クラスですが――」
 何だ?
 まさか、さらに上の特別な賞でもあるのか?
「他クラスへの妨害行為、学生の本分を著しく逸脱(いつだつ)した公序良俗(こうじょりょうぞく)に反する出展内容などなどの理由の為、協議の結果、失格となりました!!」
 し、失格?
「問題児の皆さんは、各自、反省するよーに!」
「残念でしたね、皆さん。ちゃんと反省してくださいね」
「「な、なんだってーーーーーーーーーーーー!?」」
「納得いかないわ……」
「私たち、失格なの?」
「そんなぁ……」
「問題児? この学園で2年間、真面目に慎ましやかにやってきたこの私が問題児ぃ?」
 委員長はなにやら独り言をぶつぶつと呟いていた。
「何でこの私がこいつらと一緒にされなきゃならないの……???」
「この判断に納得がいかないなら、売り上げすら没収しますが、何か異議がありますか?」
「ぐ。高坂まゆきめ……卑怯な……」
「俺、いつになく頑張ったんだけどなぁ……」
「ふみゅう……」
「ま、世の中上手くいかないものよ……。しょうがないわね……」
「杏ちゃん、達観しすぎ……」
「……問題児……私が問題児……」
「……………………」
 まさか、こんなオチだとは思わなかった。
「それでは、これで今年度の卒業パーティーを終了します。皆さん、気をつけて帰ってくださいね」
 俺は半ば呆然としながら、壇上の音姉の笑顔を眺めていた……。
 脱力だ……。


「はあ……」
 意気消沈してしまったせいで、売り上げを使って打ち上げに行こう、という話も流れてしまった。
 結局、売り上げをクラス全員で分配して解散だ。
 売り上げは結構あったはずだが、全員で分配してしまえば微々たるものだ。
 ほんの少しだけ潤った財布をポケットに入れ、俺はとぼとぼと校門を目指した。
「あ……兄さん……」
 校門に差し掛かると、、由夢が声をかけてきた。
「待っててくれたのか? 悪いな」
「べ、別に待ってたわけじゃないよ。たまたまです」
「どっちでもいいよ。さっさと帰ろうぜ」
「よくない! って、あれ?」
「どうした?」
「いつもなら、杉並さんたちと一緒に『このまま打ち上げだ〜!!』って調子になるじゃないですか」
「ああ……なんか、皆しらけちまったみたいだからな……打ち上げはなしだ」
「そうなんだ?」
「そうなんです」
「なんだかガッカリ。今回はわたしも手伝ったのに……」
「まあ、その代わり臨時収入が入ったから、帰りに何か奢ってやるよ」
「わわ……。兄さんが進んで奢ってくれるなんて珍しい……」
「何となく、このまま帰るのは忍びなくてな……。二人でささやかな打ち上げ、といこうぜ」
「に、兄さんが『どうしても』って言うなら行ってあげてもいいよ」
「どーしても」
「わ。珍しく素直だ……。わかりました、行きましょう」
 澄まし顔をしながらも、どことなく嬉しそうな表情を浮かべる由夢。
「こらこら〜。そこの付属の生徒ぉ〜、下校途中の買い食いはいけないぞ〜」
「え?」
 背後から声をかけられ、振り返るとそこにはまゆき先輩と音姉の姿があった。
「お姉ちゃん、高坂先輩……」
「そんな校則ありましたっけ?」
「今、あたしが決めたの」
「二人とも、元気にしてた?」
「ぶっちゃけ元気じゃない……」
「どうしたの、弟君……」
「クラスが失格になっちゃったから、凹んでるんですよ」
「……そっかぁ。そうよね〜。でも、自業自得だよ、あれは」
「今回はわたしも手伝わされたんで、ちょっと複雑です……」
「俺は疲れたよ……」
「疲れたのはこっちだよ弟君……。杉並に弟君に板橋、それに雪村杏……。問題児があちこちにいたもんだから、あたしたちは始終走りっぱなし……」
「気にしなきゃいいじゃないですか」
「そうもいかないでしょ。あ〜あ、問題児たちはひとまとめにしておいてくれないかしら……。そうすれば取り締まりも楽なのに……。ああ、そうだ。そうよ。クラス替えのときにひとまとめにしてもらえばいいのよ。それがいい、名案だわ……」
「あの、まゆき?」
「じゃ、音姫。あたし、ちょっと付属の学年主任の先生のところに提案しに行って来るから、先に帰っていいよ!」
「え? まゆき、ちょっと……」
「弟君も妹君もまたね!」
 まゆき先輩は一気にまくし立てると、校舎へ戻っていってしまった。
「行っちゃったね……」
「んもう……まゆきってば、思い立ったら吉日(きちじつ)なんだから……」
「そんな要求通るわけないのに……」
「ま、ともかく帰りましょ」
「そうだね」
 俺たちは頷き合うと、三人並んで歩き始めた。
「で、焼きおにぎり屋さんはどうだったの?」
 桜並木を歩きながら音姉が問う。
「失格だった」
「んもう。そういうことを聞いてるんじゃないでしょお? 弟君、いじわるなんだから……」
「いじわるなのは生徒会の方だよ……。あ〜あ、せっかく売って売って売りまくったのにな……」
「しょうがないでしょ、失格になるだけのことしちゃったんだから。いくら他ならぬ弟君のクラスでもかばえません……」
「さいですか……」
「まったくもう、弟君ったらぁ……」
「焼きおにぎり、わたしも手伝ったんだよ」
「え、由夢ちゃんが?」
 音姉が意外そうな顔で俺を見つめる。
 俺は頷いて見せた。
「……えーとぉ……売り子さん?」
「わたしも作ったの!」
「へぇ、それはそれは……へぇ……」
「なぁに? その妙な納得の仕方は……」
「だって、ねぇ?」
 音姉が苦笑しながら俺に目配せした。
「失礼な……。わたしだって焼おにぎりくらい作れるんだから」
「それはそうかもしれないけど……」
「杉並さんたちがどうしてもっていうから、手伝ってあげただけなのに……」
 由夢は言いながら頬を膨らませた。
「大丈夫だったの?」
「まあ、いいんじゃない? 一部のゲテモノ食いのマニアにはウケてたみたいだし……」
 妙なリピーターがいたことだけは確かだ。
「そう……ならいいけど……」
「ひどいよ、二人とも。かったるかったけど、頑張って作ったのに」
「かったるかったって……お前がノリノリでやりますって言ったんじゃないかよ」
「そ、それは兄さんが……!」
「ん? 俺がどうかしたか?」
「な、なんでもないよ。……ふん」
 由夢が拗ねたように顔を背けた。
「でもまあ、由夢が手伝ってくれたおかげで助かったよ。ありがとう」
「結局、失格になっちゃったけどね……」
「ううぅ……」
「あれ? お姉ちゃん、一言多かった?」
「……まあ、いいよ。なんだかバタバタしてたけど、楽しかったし」
「そうね。あれだけ盛大にやれば卒業生たちも満足してくれたでしょ」
「……あの先輩たち、みんな卒業しちゃったんだよな」
「うちの学園は付属から本校まで、六年制みたいなものだから、やっぱり卒業となるとしんみりしちゃうよね……」
「卒業したら、島を出る人も多いんでしょ……?」
「そうね……」
「何か淋しいな……」
 由夢は本校の卒業生とはほとんど接点はなかったし、一緒に過ごした期間も一年間だけだ。
 それでも、卒業式には人をしんみりさせる力があるようだった。
「どんなことにだって、いずれは別れがついてくるんだ。淋しいけどな……」
「……わたしたちもいつかはバラバラになっちゃうのかな?」
「かもな……」
「淋しいよね……」
「でも……」
「でも?」
「たとえ離れ離れになったとしても、変わらない絆はあるさ……」
「弟君……」
「そうだろ?」
「うん」
「そうね……」
 俺たちは顔を見合わせて、笑いあった。
 子供の頃から一緒に暮らしてきた音姉と由夢。彼女たちと別れ別れになる日が来るのだろうか?
 来るかもしれない。
 でも――
 そんな日が来たとしても、俺たちの絆が変わることは、きっとない。
 今日は何だか、そんな風に思えるのだった。
「なんか、しんみりしちゃったな。ここは景気付けに家まで走るか!」
「や、それは兄さんだけでやってよ。かったるい」
「そんなこと言うなよ。走ろうぜ」
「弟君、元気ねぇ……」
「それに兄さん、臨時収入が入ったから帰りに何か奢ってくれるって言ったじゃない!」
「そ、そうだっけ?」
「それ、素敵ね。私も弟君に奢ってもらいたいなぁ」
「決まり。わたしの分とお姉ちゃんの分は兄さんが払ってよね」
「ふ、二人分か!!?」
「じゃあ、弟君の分は私と由夢ちゃんで払ってあげる。それなら互角でしょ」
「ああ、それなら――」
 って、どこが互角だ!? あやうく騙されるとこだった。
「ほら、行くよ、兄さん」
「楽しみだなぁ……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。二人とも!」
 そんな俺たちのやりとりが、桜散る並木道の中をいつまでもこだましていった。


 その夜――、
 別離(わかれ)は唐突にやってきた。
「……本当に行くんだ?」
 由夢が名残惜しそうに呟く。
「純一さんの決定だからな。しょうがないよ」
 卒業パーティーから帰ってきた途端、純一さんが俺にこの家から出て行くように指示したのだ。
 『そろそろいい年になったのだから、音姫や由夢と同じ家に住むのもどうかと思って』というのが理由らしい。
「だからって、急ぐことはないんだよ? これから春休みだし、新学期に間に合うように引っ越せばいいんだから……」
「そうだよ。おじいちゃんはわたしたちが説得するからさ」
「いいよ。俺もそろそろ出て行かなきゃな、って思ってたところだし」
「ひょ、ひょっとしてこないだわたしが入ってるトイレのドア開けちゃったこと、気にしてるの? たしかにあれは兄さんの不注意だけど、かったるがって鍵しなかったわたしにも非がないわけじゃないし」
 いや、それは完全に由夢が悪いと思うのだが。
「脱衣所で服脱いでる時に見られちゃったことだって、もう怒ってないから」
 それは由夢が扉を開けっ放しにしていたんだろう……。
「へぇ……そんなことがあったんだ……ふーん」
 音姉の俺を見る目が冷たい。
「と、ともかく、わたし、ちょっとおじいちゃんと話してくる」
「いいって、いいって。それより荷物運ぶの手伝ってくれよ」
「兄さん……」
「なんだ、由夢。もしかして、俺と離れて暮らすのが寂しいのか?」
「な、なな、そんなわけないでしょ!? わたしは別に……寂しくなんか……」
「ふう……。弟君の決意は変わらないわけね」
 音姉が『やれやれ』とでも言いたげに、ため息をついた。
「いい機会だよ。もともとそういう約束だったしね。いい区切りになると思う」
「弟君は決心固めたら頑固だからなぁ……」
「俺の荷物なんてそんなに多くないから、ぱっぱと終わらせちゃおう」
「机とか大きなものは後日でもいいしね」
「じゃ、運び出しちゃおうぜ」
「はぁい……」
 ………。
 ……。
 …。
 実際、荷物はそんなに多くなかったし、音姉と由夢が手伝ってくれたこともあって――
 最低限必要なものを運び終えるのに一時間程度しかかからなかった。
「さようなら朝倉家――」
「とは言ってもお隣さんなんだけどね……」
「しかも、こっちも勝手知ったる我が家みたいなものだもんね……」
 早速、音姉と由夢は居間でくつろいでいる。
 そんなわけで、俺は今宵(こよい)から朝倉家の隣に建っているこの芳乃(よしの)家で暮らすことになった。
 ――というか、元々俺が住むはずだった家はこっちだ。
 ただ、俺がこの島に来たばかりの頃は、家主が留守にしがちだったし、俺自身もまだ小さかったので、隣の朝倉家に預けられることになったのだ。
「はい、二人とも。お茶淹れてきたよ」
 この家にはちょくちょく来ているので、家主がいなくても、こんな風に我が家同然にお茶を淹れたりできる。
「わあ、ありがとう」
「兄さんの淹れてくれたお茶、おいしいから好き」
 言いながら由夢は湯飲みに唇をつけた。
「あちち……」
「せっかちだなぁ。気をつけろよ……」
「はぁい」
「そっか、じゃあ、もう弟君と一緒にお料理できないね」
 音姉が不意にしんみりと言う。
 音姉と俺が言ってみれば朝倉家の料理当番だったからな。
「こっちに作りに来ればいいだろ?」
「でも、それだとおじいちゃんが……」
「知らないよ。おじいちゃんってば『かったるい』とか言って、、兄さんの荷物運ぶの手伝ってくれなかったし……」
「あはは。由夢の『かったるい』は純一さん譲りだもんなぁ」
「オリジナルの方が百倍メンドくさがり屋だよ」
「まあ、ともかくごはんはちょくちょく一緒に作ればいいよ。その方が安上がりだし、純一さんにもお裾分けできるだろ」
「……そうね。こっちの台所も使ってみたいし」
「じゃあ、決まり」
 俺たちは頷きあった。
「うにゃ、誰か来てるの?」
「お、家主のお帰りだ」
「お出迎えしましょ」
「うん」
 俺たち三人は連れ立って玄関へ向かった。
「おかえりなさい、さくらさん」
「あ! 義之くん。今日からこっちに住むことになったんだね?」
「ええ、純一さんの言いつけで」
「そっか。おかえり、義之くん。皆もいらっしゃい」
「「おじゃましてます」」
「あはは、『おかえり』は俺の台詞ですよ」
「うにゃ、そうか……。じゃあ、もっかい言って」
「しょうがないですね……。おかえりなさい、さくらさん」
「ふふ。たっだいまーー!!」


 そして季節は流れる――。
 流れ続ける――。
 優雅に――。
 休むことなく――。
 俺が生まれるよりずっと前から。そして多分、俺がいなくなってしまっても――
 その絶え間なく流れる季節の中で俺たちは繰り返す。
 喜びを――。
 悲しみを――。
 いつまでも、いつまでも。
 春が去り、夏が来て、秋を過ぎたら、やってくるのは雪の季節。
 初音島に降る雪は、花びらとともに風に乗って、どこまでも舞い続ける。
 雪の儚げな白と、やはり儚げな桜の淡い色とが相まって、俺たちを包み込んでいく。
 それは、優しく――。
 ときに、厳しく――
 ただ、ひたすらに俺たちの上に降り積もっていく。
 繰り返される季節の中で、俺たちはまだ見ぬ未来に想いを馳せる。
 ――叶わぬ想いに願いをかける。
 繰り返される季節の中で、桜だけが変わらずに俺たちを見つめ続ける。
 ――俺たちの想いを受け止めてくれる。
 そろそろ、目覚めなきゃ。
 あと5分――と言いたいところだが、季節はきっと待ってはくれない。
 目が覚めたなら、新しい季節の始まり。
 ――物語の始まりだ。
 さあ、始めよう。
 繰り返される物語を――。



〜あとがき〜
一気に完結です(笑)
もう気付いている方もいるかと思いますが、これはD.C.U〜ダ・カーポU〜春風のアルティメットバトル!!のアレンジ版です。つまり、本編がこの物語から約8ヵ月後に展開されます。もしご希望がありましたら、そちらも掲載しますので、皆様のご意見をコメントに。


>ごまだんごさん
実はあの後、過敏性腸症候群にかかってしまいました。まぁ、今はもう治ってるんですけどね。
おそらく、ほとんどの方が杉並チームが勝利すると思っていたのでしょうが、こんなオチです。ありえないほど勝手にアレンジしたところもあるので、多少読みにくいところもあったかもしれませんが、楽しんでいただけたなら光栄です。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
今更ながら・・・ですが読ませていただいたのでひっそりとコメントさせていただきますね。

ついに完結しましたね。熊の着ぐるみの展開にはドキドキでした(*^-^*)
オチとしてはなるほどって感じでした。さすが問題児、そしてさすがの生徒会長。

関係はないのですが「D.C.」そして「熊」と聞くとピンク色のアレが浮かぶのは何かおかしいでしょうかww


体調を崩されたりと大変でしたね(><)
ですが空手のほうでは大躍進されたようですね、おめでとうございます!
更なるご活躍をお祈りしています。
本編も読んでみたいです♪
ごまだんご
2007/09/06 00:34
女の子のオ●ニーをじっくり見たのはじめて(;゜∀゜)=3
彼女いわくオ●ニーにも前戯があるらしく、最初はナスビ入れてたよwwww
やっとバイブ使ったと思ったら一瞬で死ぬほど潮吹いてるしΣ(´Д` )ナンジャソリャ
見てるだけで6マンはウマかったわぁ(゜Д゜)y─┛~~
http://jazzye.net/nasukko/zAPwQ3dC
マサマサ
2008/06/15 01:37
これ始めたら女釣れすぎwww
いつもテ〃リ嬢に金払ってたのがバカみてぇ。。
だってヤる度に金くれんだもんヽ(´ー`)ノ
ぶっちゃけ風俗は卒業ッス(´ー`)y─┛~~

http://darani9pi.net/raku/VMiwGvhm
祖千ン
2008/07/20 08:09
オナ見だけの予定だったけど、ちゃっかり最後までフィニッシュwwww
だって下のお口がツユダクだったんだから挿れるしかないっしょヽ(゜∀゜)ノ
指マ&栗攻め→イラ魔チォ→騎乗→ナカ出シ
の黄金パターンでガッツリ楽しんできますたぁぁあぁヽ(´ー`)ノ

http://c-melon.net/ameban/BgYvX6Nm
虎とら
2008/09/06 19:16

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